飛行訓練

マーブル模様の夜空に
月は失くしたペンダントのように沈んで

私は飛べる場所を探していた
行き交う人々の流れに揺られて

転がる石の中の
格子から手を伸ばす私
オレンジ色の街灯の光を吸収して
咆哮は発光し
アスファルトの上に浮かび上がった


どこまでも 路上をひとり駆け抜けてゆけ


誰も居ない路上を
消えた信号機の下を
植え込みの横を
地下鉄の出口を
地図も 道路標識も 子供のようにはしゃぐ影たちも追い抜いて
モザイク模様の階段を上がり
レンガの壁を駆けのぼり
下りて上がって
気がつけば
天まで続く透明エスカレーターを駆け上がり
鏡のウロコみたいなビルに挟まれた
無限の中に浮かび上がっていた


飛びたくて
ただ 飛びたくて

ある時は 鳥を真似た

ある時は 飛行機を見ていた


蒼いストールを風にたなびかせ
空中を切りながら
羽根のように
弧を描いて滑り降りてゆく

ざわざわと鳴り止まない血
全身がさざ波のように振動する



やがて やわらかな月光が訪れ
揺れ動く緑の中には千の部屋

一枚一枚の葉の中に
太陽と暮らす人々の姿が映る

猫が鳴いて
あくびのオフィスの窓が
行き過ぎて


今宵は あの月を越えにゆこう




ふと見れば 地上は工場製品ように複雑で
長方形が滑ってゆく





        


自由詩 飛行訓練 Copyright  2007-11-21 22:00:58
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