キリンの日
サトリイハ

どうしてもキリンが見たいのと言ったときはすでに日が暮れており動物園も閉まっており、それでもどうしてもキリンが見たいのと言ったときに君が見せてくれたキリンは冷たくて固くて動かなくて砂に埋もれていて、でも滑ることができた。あたしは鉄棒から伸びる君の優しさの影、が本当にとてもうれしくて今この瞬間に地面と平行と直角なる線をひいてパノラマ、のように純粋な四角に切り取ってしまわなければ縁、を与えてやらなければあたしはぶよぶよと膨らむ温い水、になってしまいそうだったから切り取るすべを持たないあたしは黙ってブランコを漕いだのだった、あたしの前足で後足で空気をかき混ぜてぶよぶよになりかけの温い空気(肉色の粒粒)を拡散してしまわなければと必死で漕いだのだった。鉄の鎖を握る手は汗ばんで血のにおいがする肉色が焦げた褐色の粒粒がついてる。まま前へ、後ろへ、前へ、後ろへ。温かい空気は上昇するのだよと理科の時間に先生がしゃべっていたらしいのを眠たいらしい重い頭で聞いていた彫刻刀でへんな文字やら穴やらが刻まれた机、牛乳をふいた雑巾、校庭の砂ぼこりとざわめきの横をまるく吹く風、チャイムのオレンジい音となんか夢、みたいなものとルーズリーフ、制服のポケットのなかの手、買ってくれたペプシコーラ、そんなのも全部全部漕いでかき混ぜて上へ昇らしたらぐんと前足が伸びてつま先に月、降りてきなよ、と君が言ってくれなかったからあたしもうずっと漕いで。


初出 「新宿金魚街図鑑」
http://blog.livedoor.jp/senco_gft/archives/267635.html


自由詩 キリンの日 Copyright サトリイハ 2007-11-21 00:54:01
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