逃避
三条



綺麗な声が


耳に残る
冬の静かな海みたいな
秋の蝶の羽音の様な

マッチが燃えるその赤い色
チェロの最低音
月の光がわたしに注ぐ音


そんな綺麗な声が


静かに柔らかに粘着質に揺らぐその声が途絶えて久しい



さよならで打ち切ったテノール
今でもリピートが止まないあなたの最後のまたね


泣いているのはわたしの方

何故か

こんな筈じゃなかった


まともになりたかった
普通は怖かった
幸せは邪魔だった

卑屈に研ぎ澄ました目
嘲け歪む唇
絞めるための首

それがわたしの全てだった


ひとりになりたかった
ひとりでないとなかった
いつも耳を塞いでいた
自分の倫理が全てだった



さよならテノール
甘い最後のビスケット


あなたの上手なキスに
わたしは失望した


さよならテノール
鼓膜を焼いて
もう聞きたくない声


止まない


さよならテノール





自由詩 逃避 Copyright 三条 2007-11-20 23:36:02
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