誰も居ない砂丘
狩心
スコープを覗き込み
ライフルの照準を合わせると
かたかたと震える枠
心の動揺が、この絵の中に
弾丸として込められている
誰も居ない砂丘
水色の空と肌色の丘が
現実と幻想を美しいコントラストで描き
境界線は曲線のみで
全てを曖昧にしようとしていた
風が吹き、小さな砂の粒が転がる
空は渦を巻き、砂の粒を吸い上げていく
大きな柱がゆっくりと姿を現す
一つ、二つ、三つと、砂の柱は増えていく
そこにぶつかる風が、ゴゴゴと唸る
空から、そして砂丘から、
白く巨大な歯が生えて
噛み締める顎の運動が
がしゃりと
風景を粉砕した
それはもしかしたら
弾丸を装填する音に
似ていたかもしれない
粉砕された画面は
真っ赤に染まった
波打つ赤と
見えなくなった空
誰も居ない砂丘
絵の中で倒れた人
それは言葉の通じない
外国人であったか
それとも、自分自身であったか
今ではもう、定かではない
沢山の条約が書かれた紙を
切り裂く音だ
望遠レンズには罅が入る
目を擦って
何度もスコープを覗き直した
砂嵐の中に、人々の顔が浮かんでは消えて
最後に、母親の姿がシルエットで現れる
その姿はゆっくりと
誰も居ない砂丘へと消える
その瞬間
砂漠の太陽がフラッシュをたいて
時を閉じ込めた
スコープから目を離し
ライフルを砂の上に置く
手は真っ赤に染まり
赤い波紋が心臓へと続いている
とても静かな時間だった
人の命は一瞬で粉砕され
声だけが残った
この絵の中に
誰の姿も無い
ただ、枠だけがかたかたと震えて
孤独な命を
繋ぎ止めていた