ルビのなかにきみはいない
佐々宝砂

ルビのなかにきみはいない
もちろん
カタカナばかりの心地よい音の連なりのなかにも
つまり説明しなくちゃ
きみには決してわからないだろうけれど
いやきっと
説明したってきっとわからないんだけれど

詩と書いて「うた」と読もうが
詞と書いて「ことば」と読もうが
そんなこととは無関係に
詩は詩であり詞は詞だってこと
心をココロと書くことだってそう
いやひょっとしたら民俗学的表記なので
あるいは生物学的表記なので
それでカタカナなんだろうかってのは絶対うがちすぎで
こころはこころ
もっともわたしはそもそも
"kokoro"という音の響きを好まない

さてわたしは詩にも詞にもココロにも興味がないので
いまから一人で山に向かうのである
秋盛りの山は薄暗い
有名無名の生き物がわたしを迎える
人はまだすべての茸を名づけてはいない
本当にまだ名がないかもしれない茸
それから黴
粘菌

わたしはふっと生きていてよかったと思いそうになり
これはいけないと思い直し
わたしを殺すかもしれない茸をぱくりと食べそうになり
またこれはいけないと思い直し
これは食べられると確信できる
みごとな朱色のアカモミタケに頬ずりして
ほっぺたを汚してよろこぶ


自由詩 ルビのなかにきみはいない Copyright 佐々宝砂 2007-11-19 23:50:55
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