窓辺
たけ いたけ




手を伸ばしながら
肌色の陰影を儚く思って
昨日の出来事や
消えない火傷の跡を想って
逆さづりになったリスや
キスをしてくる犬や
無卵生を守っている卵の殻
なんかを次々に一緒くたにする
そうやって何回も描かれるものたちが
いつか自分に帰ってくるように願いながら
手をしっかりと引き返した

飛行機が飛んでいく先は寂れた国内線専用の飛行場
偶然に窓を開けてその飛行音を聞いていた人たち
右耳だけで聞いていた人
あるいは左耳だけの人
あるいはもう遠くの背後だったのだが家全体が震えて聞かされていた人
その全ての気持ちが少しづつ薄れながらやがて着陸する

鑑別所の電灯の下で会話の一つ一つが記録される手元
冷たい建物の中で市民権が失われて
冷たい書記にさらされた母
その母が好きな犬の散歩の途中で喧嘩する男と女
そしてやはり息子を愛する母
息子が貰ってきた刑事と逮捕状

懐かしい世界で緩やかな河の上で小さな船で小さな漁をする
夕陽に照らされる
濁った透明の暖かな空間で
遥かな空間と遠くからやってくる風景

真昼の狭い部屋の中
 アイだとかコイだとかキョウミないぜ
って唄っている音楽とともに視線の下のほうで真っ黒な車が走り去る
恐ろしいスピードに恐怖を感じた
 ねぇアンタ少し変だよ
ね 飛行機の音はかき消されてしまったけれど
お構いなしに空は水色のままで
ゆらゆら泳いでいる
背中で
ポトリと音がする
蛇口の栓をしっかり閉めよう
昨日受け取った母の手帳をもう一度読み返してみよう
そこには途轍もない詩が広がっていた
赤いゴミ箱をひっくり返さないように振り替える
そのときには気付かなかったけれども
振り返った時の部屋の奥には孤独な亡霊が佇んでいた





自由詩 窓辺 Copyright たけ いたけ 2007-11-16 03:46:29
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