絶筆の冬
曳舟

からっぽになった私が
書きあらわせられることなど
なにもないのだった

誰もいなくなった私が
これ以上はなすことなど
なにもないのだった

静謐な図書室の
窓辺に寄り添った椅子は
あの時にはもう
私だけのものではなかった

私でないだれかが
手元の活字の上に
日向を躍らせる

小春をもとめて
二の腕をさすった
絶筆の冬



自由詩 絶筆の冬 Copyright 曳舟 2007-11-15 00:40:42
notebook Home 戻る  過去 未来