靴の下
紫苑

もし
人の歴史は時間という名のベルトコンベアーに乗って
その中で

創ったり壊したり
与えたり奪ったり
拾ったり捨てたり
消したり遺したり
愛したり憎んだり
慈しんだり蔑んだり
誇ったり妬んだり
救ったり殺したり

そうして生きて
死んで往くことなのだとしたら

僕が歴史の時間に習うことは
そんなベルトコンベアーから降りた
命の死体たちが端に陳列している後方を
望遠鏡で眺めることで

考古学者たちは降りた死体へ必死に逆走して
死体たちや死体たちの遺物や周りの風景を
知ろうとしていて

科学者たちは未踏の先へ誰よりも早く疾走して
見据える景色を証明しようとしていて

ベルトコンベアーは容赦なく廻り続けていて

よく見れば
死体たちが遺した痕がびっしりと
足下を埋めていて

僕はその上を歩いているのだと初めて気付く

夥しくも極彩の誇りを湛えるその痕は
端に陳列している死体よりも
其処に居たのだということを主張していて
僕はそれらを一歩一歩靴の裏に張り付けながら生きていて
そうして僕の痕を重ねるんだね

そうして僕は痕で高くなった靴で
時間という名のベルトコンベアーの上に乗って

痕の上を

命の上を歩く


自由詩 靴の下 Copyright 紫苑 2007-11-12 21:41:30
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