つむぎの日
サトリイハ


図書館のベランダからふう、の数だけうろこ、ひとひらずつ吐息に包まれた言葉が浮かんでいますねと教授、似姿、とでも言うのですか、言葉、の似姿がうろこなのか、うろこ、の似姿が言葉なのか、こたえは貯水塔の中にありますのですから、千子さん、その動脈で、探してみなさい、とくとく、の拍が水のリズムと重なったときそれは、流れてくるのです、それは、千子さんの仕事です。あたしの、仕事ですか、あかい光を射す教授の視線、が確かすぎて触れそうで、す、と眼鏡の先に手を伸ばす、とあたたかく脈をうっている視線が生きている、ことを識る、意味をなくしていく、体と物たち、意味はなく、ただそこに在る、体と物たち、形ないものたち、その全て、の似姿が水、ないし言葉、なのだとしたら、流れてゆく、雲、それらは流れてゆくのだろう、その軌跡が(世界)、はっと息をのむ視線が頷くそのあかい視線のイトは太古からのスピンドルによって紡がれていた、教授、あたしもう走らなくちゃならない、鳴らないの、カラカラと紡ぐ音、を鳴らさなくちゃ、と振り向くと欠けた緑色の柱だけ、イトを縒るよな木々の声だけ、あたしは階段を駆け下りて走り出す(スピンドル)!


初出 『新宿金魚街図鑑』
http://blog.livedoor.jp/senco_gft/archives/211692.html


自由詩 つむぎの日 Copyright サトリイハ 2007-11-11 21:42:03
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