記憶の旋律
いすず

懐かしい曲が流れる
あなたがよくくちづさんでいた
T.H.というとあなたにはひらめく言葉

かなしいときは両腕を広げて
うれしいときは胸いっぱいに抱きとめて
雨宿りの午後に 傘もなく待つ軒下で
もうながく会えなくなること 言い出せなかった
あなたの やさしい笑みに つらすぎて

あなたがいるからさびしくなかった
いまでも 思うの
わたしが愛せなかった自分の過去
あなたは 愛していたね
知っていたの

記憶の中で
恋人はいつまでもやさしいというけれど
あなたは心の奥にまで入ってきたエトランゼ
懐かしい雨がいまも降る

やさしいリズムで
くちづさんでいた言葉
まるで呪文のようなの
繰り返し 繰り返し

好きなのは君以外にいないと
悲しい言葉のように

愛というものを知った
あの頃と同じ
あなたのままで
愛というものをはじめて身近に感じた
あの頃と同じ
わたしのままで
また 会えたなら

さよならはもうないの
かなしい過去にもうサヨナラ
いつもそばにいてね
約束

うれしいときはそばに居てね
約束

あなたが好きだったあの曲が
降るようなの
音楽がいいんだっていってた
その意味がわかるのは
ずっとあと
どうしてあのとき 聞き返さなかったんだろうね
ずっとあとで 
ずっとあとで だいじなことが わかる前に

つばさがわたしをはばたかせる前に
ひとことだけ残したいの
あなたがいなければ はばたいたって何もならない

記憶の中の旋律は いまも 零れるように



自由詩 記憶の旋律 Copyright いすず 2007-11-10 18:42:32
notebook Home 戻る