「下り坂からあなたへ。」
菊尾

ため息はどこにも行かないで
きっと足元に溜まっていく
足の先が冷たいのはそんな理由
もっと積もらせたら
心は何も感じなくなる気がする
べつにそんなこと望んでないけど

二日前に書いた返事には
伝えたいことの半分も書かれていない
器用な手先に憧れていたけど
今はそれよりもただ素直さが欲しい

下り坂では急かされる
駅のホームの蛍光灯と脇に生えているネコジャラシ
見慣れた電車が追い抜いていく
止まれと書いてあるから止まってみたりした
坂の途中、斜めの私
ピザ屋さんのバイクが道を曲がった
坂の下にあるトンネルから出てきた小学生達の黄色い帽子
止まったままなのは私だけ
斜めでも止まれるのに
動くのには消極的な私

「あぁいう風にできたら」
「こんな感じでいられたら」
語尾に付けるならタラよりマスがいい
マス?誰へのアピール?
正しくは「る」?
タラとかマスとか魚でいたっけ
魚は骨が取り除けないからイヤなんだけど
やっぱり器用な手先も羨ましい

何考えてんだ私
集中力無くて妄想ばかりだ

二本目の電車が追い抜こうとしている
止まれの字から抜け出して電車を追い抜いてみる
下り坂は背中を押してくれる
ちょっとだけ追い抜けた
息を切らしながら返事を書いたことをあなたに伝えよう
明日には届くけど今伝えよう
そして少しだけ、それとなく、
思っていることも伝えてみようそうしよう

口に入った髪を取り除いて
乱れきった胸に手をあてながら
私は通話履歴からあなたを探す


自由詩 「下り坂からあなたへ。」 Copyright 菊尾 2007-11-06 22:18:32
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