鏡に映して
渡 ひろこ
はにかんで笑う アノコの
やわらかな心のヒダを斬りきざみ
助けをもとめるノドブエを噛みくだいた
アノコに突き刺した
痛みと悲しみの
鮮烈な返り血を浴びたとたん
それはドス黒くキミに染みていく
(映してごらんよ 鏡に)
キリキリと耳まで口が裂け
だらしなく舌を垂らし
ギザギザのとがった歯から
イヤな臭気を放つ姿を
うそぶく手で羊の皮をかぶっても
まっすぐな光の反射
あからさまに照らされるキミ
醜くイヤシイ
ひと の かたち
ふるえる指先の
隠れた半月
(だけどそれさえも見ようとしないね
見るのが怖いんだね、鏡を)
でもね
キミがこの世で最初にみたのは光
母親の胎内から出て
温かな血にまみれ
眩しさに感動して泣いたのは
アノコも同じ
力を抜いて
ふぅーっと
大きく深呼吸してみて
キミも抱える
歪んだ軌跡を
そっとなぞってあげるから
ウザイなんて思わないで
キミ自身の魂の輪郭にもどるだけ
殺ぎすぎた自分を知るために
“タダシイ”角度の
プリズムつかんで
瞳を開いて
鏡に向かって