「止まった世界で」
菊尾

いつもみたいに笑った
滲む感情を奥へ押し戻すために
いつもより多く笑った

一冊分にも及ぶ会話の中
話したいことは声に出来ないままでいる
隙間の無い会話は
途切れた後の沈黙が怖いから
聞きたいことは聞けないままでいる

触れ合っても掴めなくて
近すぎる存在だからこれ以上を望めない
僕らの間にある空白は埋まらずに
影のように孤独が付きまとっているよ

溢れる想いをどこへ沈めればいいのだろう
それでも出逢わなければなんて思えないよ
器用にこなせない当てのない恋
うつむいた先の水溜りに幾つか星が映りこんでいた
遠い場所であの人もこんな景色を見ているのかな

何も聞こえない時間
星だけが瞬いている時間
止まった世界で動くのは僕らの言葉
愛しくても涙が出るんだね

忘れないまま居られるよ
沁みこんだ記憶はいつまでも残り続けるから
きっと離せないまま
たとえ形にすることができなくても


どうしようもなく好きで
いつだって痛む胸の理由の先に君がいる
どうか消えないで
こんな感情をくれるのは一人だけでいい
僕は夜の最中
ただ君を想う


自由詩 「止まった世界で」 Copyright 菊尾 2007-11-05 06:53:46
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