降り来る言葉 XXXIV
木立 悟




水に降る水
白を摘みとり
蒼を咲かせ
水に降る水
空から空へ
伝うまなざし
水に降る水
水に降る水


子の胸に
しっかりと抱かれた鏡から
にじみゆく色
ほどけ散る色
のぼり こぼれ
泣き追う指に くゆらせ
くゆらせ


菓子を陽から除ける仕草が
光の円に鳴りつづけている
手の甲に熱く染み込むかたち
やがて夕べを映すかたち
片目のさらに片隅に
うすい羽の塊があり
あちこちへあちこちへはばたいている


指が触れても 触れても 触れても
楽の器は指に満ちない
わからぬものに
器は満ちる
わからぬものに
楽はおりる


木は金 金は木
響かぬ場所まで色は伝わる
音を信じぬものによって
手のひらを透り 点される火
そのなかに燃される歪みを聴く


冬の塵 冬の芥
異なるようで同じおまえが
夏の虫を裁くとき
おまえを映す水はなくなる
水は招かず
水は拒む


抱いても抱いても
羽は飛び去り
鏡に描かれた絵もまた飛び去る
くちうつしのうた 限られたうた
常に不確かなよろこびから
離れることのできぬうた


誰も触れずに器は鳴り
誰も触れずに楽を奏でる
つむるまぶたに満ちてはこぼれ
羽は裁きと足跡を埋め
子は鏡と鏡のはざまに立ち
分かれ飛び去るうたと火を見る














自由詩 降り来る言葉 XXXIV Copyright 木立 悟 2007-11-04 13:54:44
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