九谷夏紀



さー さー さー さー


大きな幹を辿って見上げると
高い高い所で
葉っぱが風に揺られて擦り合っているのだった

庇と庇の間のわずかな空間を抜けて
この木は人々に囲まれて守られてきたのだ

地面から根っこがむき出しになって
簡単に木の周りを一周出来なかった私は
その根っこは踏まないようにして
横道をゆく

あの木を後ろにたずさえて
いつからここにいるかわからない小さな狐が2匹
茅葺きの小さな家の前に背筋を伸ばして座っていた

塵は払われ
古い佇まいは
あくまでも簡素に

だからこそ
鎮まるのだった

ただ生きているから息をする
それだけでこの深いところにまで届いて宿るのだった

帰り道
背に書物をくくり付けた鹿が一匹
石段の横にいて
なんとも知的で
足を止めて眺めた

鹿はいっこうにこちらを見てはくれない
それでもしばし鹿を眺めた
未来の私に
必要なことだった

石段を下りて
門を抜ければ
空気はこんなにも生温い


もう風は心地よく響かない
吹き過ぎてゆく
身に沁みるように


七野の空気をいただいて帰ります

呼吸を整えにまた参ります









自由詩Copyright 九谷夏紀 2007-11-03 22:44:01
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