坂の向こう
木立 悟




無音が無音をわたる波
青空よりも遠い青空
どこへもたどりつかない坂を
息つぎだけがのぼりゆく日


雨は生まれ 雨は消え
雨は雨を巡っては消え
坂を駆ける髪と背に
翼の苗を植えてゆく


坂の向こうへ 坂の向こうへ
霧は銀を流している
坂の向こうは
音で見えない


終わりを畏れる心は消え
終わりと共に歩んでいる
終わりは冬の蜘蛛をほしがる
蜘蛛は 歩むものの目を見つめる


羽と飛沫を重ねる手のひら
折りたたむように もうひとつの手に
差し入れるように
光のように


双つの橋と憎しみが
区別のつかぬまま燃え落ちる
水と舟は揺れている
何も言わない明るさになる


鈍色をした煙の言葉
到かぬものさえ到く午後
眠りのなかを巡りながら
眠りのなかに刻まれる


曇の音をつなぐ命
空を結わえる小さな手
雨を越える雨 青の青
まばゆい坂より放たれる














自由詩 坂の向こう Copyright 木立 悟 2007-11-02 03:02:30
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