アンナ
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アンナは有名な画家の娘。
幼い頃に母親を亡くした彼女は
父親の仕事を邪魔しないように
野花や虫達と会話しながら遊んだ。
それでもアンナは幸せだった。
ある時父親に連れられてやって来た
アマンダ叔母さんの小麦畑で
走り回るアンナの絵を描いてくれた。
アンナはそんな父親が大好きで
「大きくなったらパパのお嫁さんになる」
そんな言葉をよく口にしていた。
やがてアンナも16になり
生まれて初めての恋人ができた。
恋人のアンドリューは志願兵。
戦争で親を亡くしたアンドリューは
復讐のために戦場へと出掛けていく。
それでもアンナと一緒にいる時は
無骨な笑顔を見せてくれた。
そんな彼は1915年
ドイツで帰らぬ人となった。
知らせを聞いたアンナは体を壊し
自宅のベットで寝たきりの日々が続いた。
父親の献身的な看病も空しく
アンナの体は日増しに衰えていった。
そして父親は筆を手にした。
アンナの生きた証を形に残そうと
忙しい看護の合間を縫って筆を走らせた。
父親はアンナを励まし続け
応えるようにアンナは笑った。
枯葉舞い落ちる晩秋の朝
絵の完成を待たずして
アンナは帰らぬ人となった。
父親の死後その絵は売り飛ばされ
今では誰もその所在を知らない。
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「あ」のひびき