ゆく
soft_machine


サイレンがゆく
都会ではあたりまえの
田舎ではとてもめずらしい
いのちに象があるならこの音だろうか
いのちが鐘の音であった昔のもっと前から
一羽がはばたいてあとはただ盛り上がるだけの鳩の群れが
今つぎつぎと土を蹴りビルを抜けそして朝日をあび
風の輪をみがきながら街を一瞥して大空をゆく

部屋の暗がりへたばこの煙がただよって
生活は身もゆすれない影をかぞえる
誰かの吐いた息がとてつもなく
おそろしいものになる
その時もひとりマネキンは立たされ
通りすぎる人達をまっしろな眼で見つめ
孤独なマネキンは語るマネキンだけのことばで
マネキンのしあわせを飾られたおりの奥から
いって千夜をひとことつけくわえ語りゆき
たるんだプリンやゆがんだガラス窓は
救われぬ沈みにただ身をまかせゆき
真夜中の薄い壁は鳴って報せる
何が急になくなったのか
しずかに
祝いの鯛を
捌く刃がゆく
たどり着いた電子達はあかりを灯すとどこかへ
現れた水が進みやがて夜からまた朝へ
この宇宙はいやひろい素なのか
星を運んでどこへゆく

神は黙して触れゆく
心をたたく暗い速みを
魚が浮いて海を目指す流れの
老いた野犬がゆく川に見ている
不意に鳴きたくなったのだろうか






自由詩 ゆく Copyright soft_machine 2007-10-25 20:28:21
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