Gaspard de la Nuit、夜のガスパール
rabbitfighter

月の、満ちる夜の、
世界から、少しずつ音を消していく、
地球の反対から初めて、少しずつ、
コーヒー農園で歌われる歌、
山羊のため息、道草する羊飼いの口笛、
サンバ、ボッサ、レゲエ、ロック、
 
シンクを打つ水滴、下水に流れ込む雨、
夜の、人知れぬ夜の、
川の立てる音、海の立てる音、
ジェット機の爆音、渋滞中のクラクション、

二弦、三弦、四弦、五弦、六弦、
夜の、道行く人の、
乾いた咳、と、聞き間違えてしまうくらいに、乾いた足音、
カラン、コロン、

いくつもの街から、夜の、ざわめきを、罵りを、詩を、愛を、失望を、
それらの音を余すところ無く消していく、
ほら、
鼓動も、
消してしまう、

そうして残ったのは、トリルとアルペジオ、
頭の中の、消せない耳鳴り、
眠れない夜の、唯一の、独奏、
耳を傾けろ、その耳鳴りに、トリルとアルペジオに、

夜、あなたの名前は、夜、
朝が来れば、死んで灰になる、


自由詩 Gaspard de la Nuit、夜のガスパール Copyright rabbitfighter 2007-10-23 01:09:28
notebook Home 戻る