お婆さんの飴玉
服部 剛

残業の時刻 
隣の机の同僚が ぼりり と 
飴を噛みくだいた 

「 お年寄りにもらったの? 」 

「 はい、Tさんから 」 

耳の聞こえぬTさんは 
お婆さん達の会話にいつも入れず 
黒い眼鏡の裏側で 
いつも涙をためている 

時折、職員の名前を呼んで 
まっすぐさしだす細い手から 
ぎゅぅ と飴玉を握らせる 

明かりの消えた 
老人ホームの部屋 

いつも蚊帳かやの外で
Tさんがうつむく無人の席に 
机に向かう僕等はそろえて
目をあげた 





自由詩 お婆さんの飴玉 Copyright 服部 剛 2007-10-20 17:55:44
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