深まる森
狩心
雨の絶えない戦場だった
沼に入れば、蛭が喜んで血を吸う
足は腐り、ブーツも履けなくなる
ゆっくりと眠る事はできず
片手に銃を抱き抱えたまま
落ちてくる雫に、耳を澄ましていた
近くで地雷の音がして
仲間が一人、二人と消えていく
誰も助けられないまま
一人蹲って、震えていた
敵が攻めてくる前は
この森もやけに静かだ
静寂の中に身を潜め
気配を消さなければならない
少しでも物音を立てれば
すぐに敵に見つかって
射殺されるのだ
私は立ち上がる事も忘れていた
するとどうだろう
深い森の中に一人
敵も味方も見出せなくなって
透明な戦士が一人
現れたではないか
そいつは何も語らない
言葉を忘れてしまって
呼吸だけを繰り返している
その呼吸に、何の意味も見出せなかった
地雷を踏んで死ぬよりも
みすぼらしい姿
私は立ち上がった
そしてすぐに射殺された
しかしそれでよかった
立ち上がらないよりも
そこに意味はあったのだから
新しい森の為に再度
完全武装で密林のジャングル
得体の知れない茸が話し掛けてくる一睡も出来ない不安と恐怖の夜
ウトウトと居眠りをしてしまい気付いた時には皮膚上に密林のジャングル
得体の知れない茸が皮膚の細胞と会話している興奮冷めやらぬ情熱の夜
遺伝子の情報が書き換えられて唇から滴る唾液が赤から黄色へと変わるナイル川
色とりどりの油に塗れたワニが口を開けながら川を渡る人を待ち伏せしているのが見える
わたし 口裂け女
両腕を使って口を引き裂いて唾液が大量に流れ出る故郷の匂い
重力に逆らって上昇する唾液たちが必死に顔面にへばり付こうと踏ん張るナイル川
べとつく汗と筋肉の収縮、痙攣し始めた魂
動かなくなった体は
そのまま故郷の海へと運ばれた
私の体にしがみ付き、泣きじゃくる一人の女が居る
女は呟いていた
あなたの死体は、
あなたの死体ではないと
新しい森の為に再度 ――