童話の山羊の夜のみち
紫乃



    冬の夜の
    何もない一本道を
    包帯だらけの山羊が
    針金でできた自転車に乗って走る
    かたりかたりと
    暗闇に音を染み込ませていた

    煙草の煙と
    白くなった吐息とを
    交互にはきだしながら
    ちりんちりんと
    誰に聴かせるわけでもないベルを鳴らして

    このまま吐息を全て
    夜の大気ととりかえてしまえば
    気負わずにすむのだろうか
    そんなことが、そっと
    山羊の頭をよぎる

    両腕にあまる夜の気配は
    針金がひしゃげるたびに
    強まっていくようだった

    道は次第にほそまって
    やがて
    車輪と同じ幅しかなくなってしまう

    スクラップになっていた
    脳髄のすみの記憶は
    子供の手の中にある飴玉みたいだ

    かたりかたりと
    世界は微かに震える

    大きな化け物を
    大きな山羊が食べてしまったように
    世界は微かに震える

    包帯だけがひらひらと
    夜の空白を飛んでいった



自由詩 童話の山羊の夜のみち Copyright 紫乃 2007-10-14 01:28:18
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