林檎の刹那
渡 ひろこ

さあ 耳を澄まして 心を静めて
金木犀の香りにだまされないで
こちらをじっと見つめて
あなたの手のひらにのっている
この罪は何の罪?


そう 口を噤んで 囀り止めて
秋桜の可憐さにまどわされないで
深く息を吸ってみて
ゆっくり吐いた溜息の
この色は何の色?




瑠璃色の毒の林檎の薫りがした




浅い呼吸に波立つ胸
あのときの刹那は
瑞々しい果実を齧ってしまった
甘い罠
ふるえる唇のいざないに
あらがえなかった蒼い罪




さあ 薄紅色のまどろみから目覚めて
侵してしまった領域
孵らない卵をそっとおいて


報いの日は来ようとも
噛まれた傷は
まだ浅い





そう だれも
触れてはなりませぬ
剥き出しのままの
林檎の刹那

  




自由詩 林檎の刹那 Copyright 渡 ひろこ 2007-10-09 19:41:10
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