コロッケの日
ポッケ

コロッケは生活の象徴
雑然としたテーブルや
家族の遠慮ない声
今日という一日の繰り返し


晩ご飯はコロッケがいいな

ミンチとじゃがいも、あったね

二人でやると早いよね

手が4本だからね

小麦粉と卵とパン粉、こてこてして面倒くさいけどね

まあ、面倒くさいね

腰痛いのだいじょうぶ?

まあまあかな

これちょっと大きいんじゃないの

じゃあこっちは小さくするよ

お母さんも大変だね

あんたもね

涼しいから気分はいいよ

ならいいね

まん丸にしていい?

丸めるだけでいいよ

ねえ

ちょっとパン粉もう少し、え?なに

ねえ、遺書かいといてね

まだ元気だよ

だからだよ

遺書なんて、なんにも残すものないよ

遺産じゃないよ、手紙だよ


ちゃんと、さようならの
手紙だよ


大きな病気にかかってるわけじゃない
あした交通事故にあうみたいな
嫌な予感がするわけじゃない
けどコロッケを丸めてたら
最後の思い出が今だったとしたら
だとしたら、どうしようって

あなたは勝手にころさないでっていうかもしれない
でも
二人でせまい台所にいるからって
湯気が立ってお茶碗がそろっているからって
明日が同じように来る約束はどこにも無くて
突然の喪失が来ない約束はもっと無くて

同じような明日が来たら
変わらず減らず口を叩くのだけど
二人でコロッケを作ったことと
あなたが鼻歌をうたったこと
明日が変わらず来ても
決して忘れない
同じようにコロッケを作る日があっても
恐れと安らぎのなかでコロッケを丸めた今日をわたしは
忘れてはいけない






自由詩 コロッケの日 Copyright ポッケ 2007-10-07 16:07:43縦
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