大人の遊びかた
佐野権太
湿ったソファーに沈みこんだ
少女の
くちびるからもれる
母音の
やさしいかたちを
泡にして
水槽のふちに
浮かべている
*
贈られた模型を
にこやかに受け取り
持ち帰って
なごなごに破壊したあと
その細かく尖った破片の
ひとつひとつを接着して
うにのような戦艦を創りあげる
いやらしく笑う
*
おおひな ひゃらめるの
包み紙の
白濁したせかいに閉じ込められて
ひとつぶの重さに
かたかたとふるえている
*
ぱんの耳ばかりあたえて
二日で死なせてしまった
うさぎの
正しい飼い方を
冷たいいしにむかって
なんども復唱している
*
かつん、とささやいた
どんぐりの、みっ
しりふくらんだ
きみどりの涼しさを
くちびるから吸引している
*
きいろい白粉花をみつけて
うかれたゆうぐれは
湿ったつぼみのなかに
しのび込んで
人がゆきすぎるのを
こっそり観察している
ぽぅと生まれてみせては
所在なく
また潜り込んでいる
*
ぽくぽくと流れくだる
ひとつひとつを
すくおうとして
くゆりながら
逃れてゆく
ちいさな旋律のゆくえに
はな唄を
細く溶かしている
*
何もいいことがなかった大人が
ひとり
遊んでいる
あさひを
袖でらんぼうにぬぐいながら
しずかに
遊んでいる