群像
草野春心


  気安い同情とクレジット・カード
  じつに雑多なものたちを乗せ電車が行く

  (混沌、混沌。コントン、コントン……)



  プラットホームにいびつに立つ 性欲と性欲
  その臭気で世界が成り立っている

  (コントン、コントン……)



  とらえきれない人々の影はいつか
  とらえきれない人々の胸のうちにしまいこまれる



  心が解らないのは哀しいことじゃない

   *

  朝はいつも太陽とインクの匂いがする
  そして……かなしみが窓を通り過ぎる



  情報は膨大すぎる
  人は知りすぎる
  命は短すぎる
  自分は……ただ一つだけで



  自殺率 失業率 がん死亡率 内閣支持率
  BMI指数 偏差値 国民総生産額
  この世界に どんな数字を積み上げても
  子等の声は知らぬ間に永遠を唄う



  朝はくりかえし語りかける
  呼吸するだけで手に入る……そんな幸福があると

   *

  工事現場
  並んで煙草を吸うヘルメット
  工事現場
  ぜんぶ同じに見える
  ぜんぶ同じものを作っている
  工事現場……



  石神井池では今日も
  鴨が尾を振って泳いでいる
  爺さんが柴犬の散歩をしている
  彼の思い出が彼の世界を美しく染める頃
  遠くのベンチで恋人たちがキスをする



  そんなに悪い時代じゃない
  ヒトが破壊したものは数知れず
  けれど築いたもののきらめきの中で
  無数の蝶々がささやきあう
  そんなに悪い時代じゃない

   *

  街――それぞれがそれぞれを歩く場所
  道と道の結び目が映し出す
  とらえきれない心の残像
  時は弱く だが確かに進み
  世界じゅうに 消えない皺を刻み続ける



自由詩 群像 Copyright 草野春心 2007-10-03 09:27:52
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