ゆふぐれ
山中 烏流

一人ぼっちで
影を踏んで遊んだ、帰り道
空は何者かに犯されて
真っ赤に燃えていたことを
それだけを、ただ
覚えている
 
無垢な手のひらを伸ばした
見知らぬ稚児の瞳には
あれは、鮮やかなおれんぢに
映っているのだろうか
恥じらいには
見えないのだろうか、
 
 
舐めかけの飴玉を
取り出して、透かす
私の唾液と、飴色の雫と、
他に何を知れば
綺麗を抱けるのか
 
薄々と輪郭を示す空の瞳は
私の瞳を離してはくれない
影踏み、影法師
にらめっこをしたままに
 
 
窓越しに見た
あの日のゆふぐれは、確かに
おれんぢに思えた
 
あの稚児が指した
視線の先の空に
答えは、あったのだろうか
 
 
裏側に沈む時
揺らいで見えるおれんぢを
私はいつも、見ないふりで
下を向き続けるために
影を、踏んでいたのかも
しれない
 
稚児の呟きは
烏が啄んでいった
どうして、あのゆふぐれは
泣いているのだと
呟いた、声ごと
 
 
足音は、
 
もうない。


自由詩 ゆふぐれ Copyright 山中 烏流 2007-10-01 23:39:40
notebook Home 戻る