フルムーン・ラプソディー
渡 ひろこ

まばらな枯れ葉を飾った街路樹
細い枝先が交差して編んだような
小枝の投網にひっかかり
捕われてしまった晩秋の月


きっと月の頬には
網目の痕がついているだろう
憂鬱な月の溜め息が
大きな冷気となって
背中に圧し掛かる


急かされるように
コートの衿を立て
キリキリと尖ったヒールで
カツカツとアスファルトを響かせて
虚勢をはって歩くのは


背後で星屑を吐きながら嘆く
月の戯言を
退けるためではなく


アノ人の影が
薄紫のストールとなって
ふとした透き間に
思い出で私を包もうと
密やかに追いかけてくるから


強がらないと
すぐにも振り返って
両手を広げて
受け入れてしまいそうで


崩れ落ちないように
キッと寡黙な蒼い夜を
見据えると


街路樹から逃れて
そらに泳ぎついた月が
揺るがないオリオン座を
ぼんやり照らす


振り切るように家路に急ぐと
ふと身体が締め付けられるような感じがして足をとめる
いつの間にか天空の斜め45度から
しなやかに降りる月明かりに捕われていた


月の唇から零れ落ちるラプソディーが
投網となって巻きついてくる
大事に纏っていたセンチメンタルを舐め取りながら
ぷっくり満ちていく月

あと一歩の戸惑いと逡巡を
手のひらに乗せ
朧に化粧しながら
ゆるゆると芳醇な茜色を
醸し出す

重ねた思い出を剥ぎ取られ
震えながら見上げると

霞んだベールの間から
捕えた獲物に
うっすら笑った







自由詩 フルムーン・ラプソディー Copyright 渡 ひろこ 2007-09-29 20:15:20
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