白い壁沿いを歩く日
水町綜助

 街に日が射して
 コンクリートの
 続く壁面が白く発光しているのを
 たよりにつたって
 あるいて
 その擦り傷のようなざらつきの
 わずかな影のさき
 壁の尽きるところの
 晴れやかな
 晴れやかな終局か何かに
 顔を綻ばせている

 少し猫背で
 ポケットに親指を隠して
 瞼はすこし伏せて
 透明な陰影に浮き彫られて
 あきらかになるくらいには
 わらって

 僕が、歩いているような
 街が、通り過ぎているような
 錯覚が、街路樹の鮮やかな緑色として
 輝きに、傷を付けられながら
 僕を、
 だますように
 仄かにかすんでは
 切れていく 

 いま歩いて
 一人で
 僕は
 高円寺から阿佐ヶ谷へ
 歩いて
 歩いていくとき
 すれ違う誰かも
 誰だかも
 もうどうでもよくないか
 僕が君とか言ってしまう君が
 通り過ぎていったとしても
 こんなに晴れて
 それで九月のしっぽにつかまっていても
 まだまぶしいんだ
 顔も分からないよ 

 だから
 こんな駅の
 北口に建っている
 ふた抱えくらいの
 四角い柱で
 その一本の柱だけで
 僕たちは
 僕を僕たらしめる君をみ失うし
 同じように君もみ失うんだよ
 いつまでも
 ほんとうに
 そぐわなければ
 そんな簡単なことで
 
 こえが 

 って、君は唾液を飲み込んだ後に言うだろう(のどが渇いているね)
 だとしても果たして
 どうだろうね
 また
 あえるといいね

   *

 鐘が、鳴ってるんだ
 どっかの誰かが
 からんからんと
 ひろいところで揺らしてる
 街を
 僕たちを
 時間くらいにはくぎるために

 とてもきれいに鳴らすから
 僕たちの間で反響して
 それは甘くて
 冷たいけれど
 青いろにも溶けやすくて
 うつむき加減に歩く僕に
 静かにとぼってゆくから
 もう
 うなづくしかないんだ


自由詩 白い壁沿いを歩く日 Copyright 水町綜助 2007-09-28 11:36:11
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