『小夜曲』
東雲 李葉

真っ黒くて大きな影。
じっとこっちを見ている。
零れる涙。
君の瞳が濡れていく。
広いくさはらの真ん中で、
幼い影は二人ぼっち。
木々が擦れるざわめきが、
獣の呻き声に聞こえてきて、
震える手を握り締めた。
僕の指も震えていた。
姿無き声は荒波のように、
静けさの後で叫びとなって襲ってくる。
為す術もなく小さな身体は、
隙間も作らず寄り添って互いを糧とするしかない。

そんな僕らの頭上から、
幾万もの流星が。
夢のように美しく、
幻よりも確かな光で、
瞬きながら降り注いだ。
不死鳥みたいな長い尾を引き、
生きてるように微笑み見せて。
地球の肌を流れ落ちていく、それは、
先刻まで君が零した涙にも似て。
指に掬った流星は空を映して輝いた。
それはこんな小さな月が見下ろす夜に、
父の大きな背中のうえで風の歌が聞こえたように。
何の兆しも見せないままに突如生まれた物語。
光はまた音も無く闇から生まれ出て、
瞬く間に僕らの未来へ駆けてゆく。
星は何時でも二人を見つめ、
僕らはそれを掴もうと小さな小さな手を伸ばす。
それは幼い身体が震える夜に、
光を忘れた世界から突如生まれた物語。
希望の胎児は瞼を開き二人の行方を見守っている。


自由詩 『小夜曲』 Copyright 東雲 李葉 2007-09-27 10:17:10
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