黒猫ストリート
秋也

君は黒猫が居れば「風景にストーリーが生まれる」という。
だから僕は、白みがかった鯖虎の飼い猫を黒くペンキで偽装することを妄想する。
「馬鹿じゃないの。頭大丈夫。」
「だって黒猫であれば、物語が生まれるんだろ。偽ても何か生まれるか、はたまた似せたら何が生まれるか試さないと。」
「ホントに、呆れるよ。」
「そう、君のその顔がみたくて。すごく可愛いから。」
いつも僕に呆れて
いつだって僕を相手せず
見下したように苦笑する
君が少女のように可愛くて
恐ろしくて
絶対的で
いつだってまた逢いたくなる。
そりゃ飼い猫だって犠牲にしたくなる。
「あんたって、本当に子どもだね。」
この台詞で嬉しさ隠せず
僕は照れ笑い。
叶わないけれど、二人で公園ゆっくり歩いて、黒猫探して写真に収めてみたい。
きっと彼も気ままだから、僕らみたいにわがままで、
寂しいくせに、澄ましている。
彼がいたら、
風景に
公園に
物語がスッと流れるんだろ。
そうそう、来ない日をいつか必ずと妄信して、飼い猫のアリスを黒く染めることはやめるよ。
可哀相だし、僕にとってもそれはすごく都合悪い。
アリスが懐かなくなるのは寂しいことだ。
だから、檻におさまった鯖虎のまんまのアリスに、僕の親指を重ねた、いい加減な写真を君にあげる。
まったくもって、意味不明で、不愉快で、気味悪く、嬉しくないだろうけどね。
ハッピーバースデイ マイ クイーン。
永遠に綺麗で、少女のままで。頭の片隅に真っ黒な猫を、君に終わることのない素敵な物語を。
お願いなんだけど、頭の中にいる彼、たまに抱かして。
代償はきちんと払うから。
どこかの公園で君に会った黒猫と、まだ君に出会っていない黒猫がニャーと懇願するように鳴く。
僕の頭を下にむかって、彼らがスッと通る。
そろそろ、アリスも起きる時間。
猫を黒く塗ることは、
朝焼けや夕焼けを、コンピューターや絵画で偽装するようなもの。
「イッツァ ナチュラルフェイク。」
「だから。」
ほら、またイラッとして笑った。
君と僕で、黒猫がいつだって、僕らがとっくに終わったはずの道を通る。
限りなくゆっくり。しっとりと黒く。
伸びなんか、余裕でかまして。


散文(批評随筆小説等) 黒猫ストリート Copyright 秋也 2007-09-25 06:13:56
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