やっぱり足が欲しい
木屋 亞万
金魚は夕暮れに尾びれを伸ばし
水際を弾いて飛ばす雫
橙の流れ込んだ窓辺で
白いレースのカーテンは濡れていく
オレンジは甘酸っぱいイチゴを核に
水際から懐かしさに痺れて
暮れなずむ世界は微睡んでいく
溢された葡萄は空を飲み込み
逆さの金魚鉢の水面に立つ
水際を歩く度に波紋が起きて
飽きることなく溶媒は弾む
乳白の沈殿が雲のよう
足を求めた人魚姫が
生まれ変われば尾びれを欲して
一つになりたいのですと
水際に雫を散らす
水際に触れた唇から
空の気が流れ込んできて
海が破れていくようであった
接吻とは新しい空気に触れること
沈みきってしまうと
葡萄は冷たく乾き始めて
金魚鉢には遠く海月の群れが
ゆっくりより遅く周り続ける
芸を繰り返しても餌は来ないのだと
幾らレースを濡らしても
水面と口付けを交わしても
尾びれなんてただの微酔の過ち