幽体離脱
狩心
真夜中
道端に倒れていた
アスファルトの上に
うつ伏せになって
力の抜けた体が
石のように冷たく
転がっていた
分からない・・・
その言葉だけが
呪文のように
頭の中を錯綜していた
硬い地面にキスをする
硬い地面に話し掛ける
魂が抜けて
体が白くなる
半透明になる体
小さく震えている
うつ伏せの体を
置き去りにして
もう一つの体が
立ち上がる
ゆらゆらと揺れる
ゆらゆらと揺れながら
歩き始めて
ゆっくりと遠ざかっていく
半透明の体と
道端に転がっている体が
何の言葉も交わさないまま
ゆっくりと
離れていく
半透明の体が
何かを思い出すように
何度も振り返る
石のように冷たくなった体が
あそこにあるんだな
ゆっくりと遠ざかる
何度も何度も振り返る
あいつ、ぴくりとも動かない
このまま闇の中を
ずっと進んで行こう
あいつは今頃
ライトの点いた車に轢かれて
ぐちゃぐちゃになってる
もう後戻りはきかない
このままずっと
歩いて行こう
半透明になった体が
遠い闇の中に消えた時
沢山の足音が聞こえて
うつ伏せになっていた体が
顔を上げる
まだ死んでない
ごろんと転がって
仰向けになる
星が綺麗だ・・・
静かな時間が過ぎた後
半透明になった体が
戻ってきて
石のように硬くなった体に
手を差し伸べる
ほら、行くぞ・・・
固く繋がれた手は
何よりも心強く
冷たくなった体を
温めた
一人の人間が
一人になるのは難しい
分からないまま生きていく
またいつ、倒れてしまうかも分からない
歩き続ける体の横を
ライトの点いた車が
何の言葉も交わさないまま
通り過ぎていく