感動する体
狩心

自分が否定されない場所に逃げ込んだあなたは
人に干渉しない場所に逃げ込んだ
特に些細な事では感動しなくなった
今にも崩れ落ちそうな自分を
冷静であるかのように装った

あなたは文字を書き始める
そこがあなたの唯一感動できる場所であるかのように
そこが世界のすべてであるかのように
あなたは自分の問題に取り組み始める
あなたは世界の問題に取り組み始める

筆を止めて、ハッと我に返ると
利き腕だけが脳とは無関係に動き続けている
利き腕じゃない方が徐々に腐り始めている
体の半分が動かなくなり、外に出て行けなくなる
あなたは助けてくれそうな誰かに電話を掛け始める
今更、誰かに繋がるはずもなく

あなたはあなたの世界にあなた以外の人物を登場させる
その人物にあなたの分身である人物を否定させる
お前みたいな奴は人間のクズだ
お前みたいな奴は生まれて来なきゃ良かったんだ
肯定と否定を掲げた二人の争いは、作られた世界を舞台として
二人とは関係なく平和に暮らしている人々を、炎の渦に巻き込んでいく
ここまで自分勝手な奴もなかなか居ない
ここまで人間に飢えた奴もなかなか居ない

炎の渦が段々と収束に向かっていくと共に
あなたは文字を書く事を止める事を考え始める
あなたは文字を書く事を止める為に文字を書いていた事に気付く

あなたは文字を書き続けている利き腕を切断した後
腐って使えなくなってしまった方の腕を切断し、土の中に埋める
歯で蛇口を捻ってバケツに水を入れる
歯を食い縛ってバケツを運んで土に水をかける
力尽きた歯はバケツを落とし、あなたは土の上に跪く
両腕がなくなった姿で、空に向かって祈るのだ
神様、この花をどうか咲かせてください
神を信じなかった者が弱った時だけ、神を信仰する

何年も待ち続けた
しかし、芽が出る気配もなく
土の中からは小さな命に震えた虫たちが
這い上がってくるだけだった

あなたはタップを踏み始める
土の中に未だ眠る小さな命に
この振動が伝わるようにと
あなたはタップを踏み始める
助けてくれた人々の音楽に乗せて
あなたはタップを踏み始める
両腕が切断された醜い自分の姿を
恥ずかしがらずに、力強くきっと


自由詩 感動する体 Copyright 狩心 2007-09-16 20:57:40
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