生態系の封印
狩心

人と人
国と国との摩擦を秘めた
力を擁護した悪魔の邪悪を
小さな体で受け止めた
天使のような女が一人
光の少女から
大地の母へと
変わり始めた朝に
血みどろになった指先を
緑の子宮口に入れて
一つの循環としてのリングを
完成させた
そのリングの中で
羽の生えた悪魔が
「権力…」という言葉を残し
小さく燃えて
灰になった
その時の音と匂いを
覚えている子供が
黄色い長靴を履いて
雨の中で透明のレインコート
母も父も
大地の肉になった
「希望…」という言葉を呟いた子供が
密林と砂漠
雪の振る氷の張った山頂と
光の届かない深海で
銃撃戦の中を
風のように通り過ぎた
誰も掴めなかった
人一人の心を
誰も癒せなかった
大人達が自分の腸を道端にぶちまけて
「奇形…」という言葉を残し
自らの血と
骨と
皮膚感覚を
自らの恐怖を
愛を
黒く硬い雨の通り道
石版の表面に刻んだ

子供達に残された世界
体は既に
解体されている
人里離れた村で
香水の香り
口紅の匂い
薄紅色に火照った体を
鞭のように撓らせて
硬く青い竹を
幾つも切り裂いて
そこから放たれた命の光
沢山の童話と
架空の人物を生み出した
気化された生が
気化された社会に戻される時
完全に一つとなって
罪の意識も消えた
人々が寝静まった頃
大都市の地底から
「戦争…」という言葉が聞こえてくる
日の昇らない世界で
また一人また一人と
機械になっていく


自由詩 生態系の封印 Copyright 狩心 2007-09-16 12:16:56
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