黒のみずうみ
石瀬琳々

鋭利な湖面をすべってゆく
一艘の小舟
私は黒布で目隠しされたまま
なすすべもなく横たわっている
風 感じるのはすべて風
重い水をかきわけて
舟はゆるやかに進む


盲目の私の世界に響くものは
蘆の乾いた葉擦れのみ
蘆はおそらく孤独なのだろう
だから風に揺すられている
さわさわと
意地悪な風に揺すられながら
秘事をささやいている
あるいは罪を
終わらない夢を


私は罪びとである事に甘んじ
陶酔 いだくのはなべて陶酔
行きつく所まで流れてゆくだけで
ふいに飛び立つだろう
水鳥の鋭い羽ばたきが
湖面に落とした波紋のように
私の心に広がる愛の痛みが
思い出させてゆくのだ
何もかもまぼろしだったと


夢想の岸から遠くはなれて
舟はやがて中心で歩みを止める
私は気だるい身体からだを起こし
目隠しをそっとはずすのだ
そして水鏡に見るだろう
私を見返す
あなたのふたつの瞳を




自由詩 黒のみずうみ Copyright 石瀬琳々 2007-09-14 13:46:17
notebook Home 戻る