九月十四日、夜の街灯
白昼夢
付けっぱなしのテレビから
砂嵐が流れてきました
コオロギの鳴き声も
少しずつ増えていきます
私は耳をすませて
色々な音を聞いているうちに
どこか遠くへと
意識を流しました
暗い部屋の中で
テレビから覗く眼が
外の街灯を見ています
コオロギが歩いていると
スズムシと喧嘩になりました
二人とも包丁を持って
お互いに刺し合っていました
私はそれを見ながら
落ちていた包丁を持って
外を歩いていきます
あの二人はどこへ行ってしまったのでしょうか
地面には血溜まりだけが残っていて
姿はどこにもありません
寝ぼけたヒグラシが鳴いている森に着くと
足元にガイコツが落ちていて
木にはロープがくくりつけてありました
首を吊った憂鬱は
夕暮れの空に歩いていったのでしょう
私も首を吊りました
視界がぼやけていく中で、誰かの声が聞こえました
あのときのコオロギが、穴だらけの暗闇の中から手を伸ばしています
空っぽになってしまったから、だから手が伸びてきて
ぐにゃぐにゃになった手足を空に掲げて
砂になっていきました
さようなら
帰り道の街灯は消えていたので、近くにあったマッチを擦ってみました
ぼんやりとした明かりが灯ると、木の陰からスズムシがこっちを見ています
何も言わないスズムシは、ずっと見ていました
使わなくなった包丁を穴に戻して、玄関のドアを開けました
もう帰らなければなりません
別れを告げるその声は
どこかに響いていって
そして消えていきました
「さようなら」