日が昇る前の、一日の始まり
狩心

昔はよく強風でガタガタ音を立てていた窓
今はすっかり静かに落ち着いてしまった窓
家の所々の窓は割れているものもある
新しいものと取り替える必要はない
割れた場所から外の空気が入ってくる
それを頬で受けて耳を澄ます
窓から外を見れば
昔と変わらない風景と
昔とは違う風景が混在している
地震で傾いた家
その傾きを見れば
表札なんかなくても
誰の家か分かる
壁や柱には焼け焦げた形跡
度重なる火事のなか
全焼は辛うじて免れている
焼け焦げた形跡を見るたびに
その時のことを鮮明に思い出す
今まで出会った全ての人々の声が
部屋の中で反響している
それをやや騒がしくも思うが
その騒がしさがなくなってしまったら
寂しくなるだろう
歩くたびにミシミシ音を立てる床
湿気を吸い込み腐敗も進んでいる
今にも抜け落ちてしまいそうだが
その危機感が私を辛うじて生命に近付ける
いつ死んでもおかしくないのだ
死んだ時に笑うのは
私のことを嫌う奴らか
私自身だろう
時計の針が止まった部屋と
止められないほど速い速度で時を刻む部屋
そこを交互に行き来する
そのリズムと窓の外の風景が
同じ速度で重なった時
暗い部屋が段々と明るくなる
朝日が昇るのを合図として
玄関へと向かう
もう履かなくなった古い靴と
最近よく履く流行の靴
私は迷わず古い方の靴を履いて
玄関の扉を開け、外へ出る
今日はそういう日だ
いつも真面目に会社に向かっていた足が
少し不真面目になって
本当の意味で真面目になる
頭は混乱し躊躇しながらも
足は力強く
失ったものの所へと歩を進める
私はいつ死んでもおかしくないのだから
今しかないのだ
そう、その言葉だけを待っていた
今しかないのだ
あなたに
取り戻したいものはあるか
未来に進む前に
遣り残したことはないか
もしそれが取り戻せないものであっても
私は何度もそこへ向かうだろう
そうする事ではじめて、未来に進むことができるからだ
今、一日が始まる


自由詩 日が昇る前の、一日の始まり Copyright 狩心 2007-09-12 14:58:27
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