梅雨空に
狸亭



はがき一葉
舞いこみ、大要、

「言語障害が発症しているようです。発作もなく、突然電話中に失言症になり、思う通り表現できなくなりました。脳血管障害なら軽い症状で、希望が持てますが、アルツハイマーだと大変です。連休明けに(脳ドック)に行くつもりですが下手をすると今が明瞭な意識の最後かも知らないので、長年の友情に感謝したいと思います。もし回復したら小説にしたい新体験です。元気でまた会えることを祈りつつ。」と。

明瞭に捺された丸い消印に
逗子12・5・6・8・12

全マスコミが同じ報道ばかり
展開した昭和の終り
あの下血騒ぎに明け暮れた日々。

小柄ながらも逞しい体躯
意思を秘めたシャドーワーク
朗々と 高らかに 激しく
真紅の鬼となって 獅子吼。

のめない酒を この日ばかりはのまずにおれぬ、と
怒り狂った君は「下血」を読みあげオーバーヒート
読み終えて畳の上に突っ伏した。

あの日からはや十数年
なお蔓延するエピゴーネン。

多発性脳梗塞とは。



雨の日の夢
目の前に炬燵がある
ひとりの男を挟んで女がふたり雑魚寝の体
手前の布団から髪をみだした寝惚け顔をよくみると
醇乎だその横が炊く
向こうが龍虎
四畳半は妄想の雨に煙っている
蓬莱山
遺恨
イコン

如何。


意思苦労中 多発性脳梗塞
孕まさじ 胆嚢
苦礼悪循 膿胸
検査 治療 入院 続々。

梅雨空に
友はみな病臥。
そう言うおのれも 十六年間
薬ばかりのんでいる
せめて 一病息災であれかし。

長野電鉄朝陽駅近辺居酒屋「フクモリ」でのみすぎて
雨の降る堰の早い流れにはまり財布亡失。

この堰は千曲川へ流れて行くらしい
「千曲川旅情の歌」

谷崎潤一郎全集耽読
増殖するナオミ 千変万化のナオミ
一面に寄せ来る活字の波 情けの海

芹ケ丘公園の森 町田市立国際版画美術館にて
夭折の画家田中恭吉展を観る。
年が若くて死ぬこと。わかじに。夭折。夭死。

繊細典雅な寂しい世界を後にして
梅雨時のあつい陽射しの下を大汗かいて歩き
ランチタイム特別サービス「天丼五〇〇円」がら空き。

憂き世は今日も
 蜃気楼の政府
 N・T革命
 キ印
 そごう
 一七歳の犯罪
ジャーナリズムは食いっぱぐれない。

上野の森陰に濡れしょぼれたダンボール。



本ばかり読んでいます。

現代語では本も「情報」のひとつにすぎないのに。
(information)
あることがらについてのしらせ。
判断を下したり行動を起こしたりするために必要な、
種々の媒体を介しての知識。と、辞書にありますが。
そして、「情報化社会」とは、
情報が物質やエネルギーと同等以上の資源とみなされ、
その価値を中心にして機能、発展する社会。とも。

TV。ラジオ。新聞。雑誌。おまけに
インターネット。
林立する。増殖する。美術館。文学館。
世界人口六〇〇〇〇〇〇〇〇〇人。
蓄積されつづける時間。
おまけに近頃では宇宙の果てまで人間は飛んで行きます。

とにかく毎日散歩もしております。




自由詩 梅雨空に Copyright 狸亭 2004-05-30 17:21:45
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