美術室
山中 烏流

夕刻を告げる時計が
散らばった色鉛筆を
一本だけ、手折る
 
私がその光景を
消しゴムへと告げ口した頃
光りだした小指は
小さく震えて、色鉛筆となった
 
立て掛けたキャンバスには
油の香りだけが
悠々と、漂って
 
 
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踏みつけた音が
私の鼓膜に住み着いている
 
にしゃり、と
湿った音をたてて
床と同化したそれを
私は見ないようにした
 
白を描くための
小さな塊を千切っては、
鼓膜へと詰め込んでいく
 
にしゃり、にしゃり
まだ、聞こえている
 
 
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石膏の名前を
私が知ることはない
 
私の名前を
石膏が知ることもない
 
 
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ここまで描いて
ふと、手を止めたのは
私と筆だけの秘密で
 
部屋の真ん中に
一人の女の子が立っている
少し私に似せたその人に
名前はまだ、ない
 
 
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開け放した窓から
大きな顔と筆が
 
私の鼻先を、じっと睨んでいる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 










 


自由詩 美術室 Copyright 山中 烏流 2007-09-07 00:11:34
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