夏の骨
木屋 亞万

ひと夏のあいだ
あおぎ続けていた団扇
骨だけになって
白いプラスティック
手に馴染んできた
縦じまの持つところ
右手を呼んでいる

いつから皮が剥がれ落ちたのか
水かきの無い手のひらは
黄ばんだ骨を手に取り
何の抵抗もないまま
空振りを続けている

思えば空振り以外
経験していない手触りは
微かに空気の重みを含んでいた
金魚の重さもないまま
一匹も掬えないで破けた
屋台の丸い紙とは違う

面影はあるが
思い出せない思い出
尾を引く情念だけ
葬られることなく
骨となる

散乱する骨は季節の残骸
原形を留めているうちに
尾を切らないと
思い出せないがために
忘れられなくなってしまう







自由詩 夏の骨 Copyright 木屋 亞万 2007-09-01 00:50:20
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