ゆめとぼく、ときときみ。
山中 烏流
夕暮れのバス停で
鳥になるの、と
呟いたきみの背には
小さく
ほんの小さく、翼が生えていて
ぼくは思わず
溜め息を吐いてしまった
砂時計の砂を飲み込んで
時を止めようとしたことを
きみは
柔らかく恥じながら
そんなぼくの頬に、そっと
口付けをする
バスが来るまでだと
微笑みながら
空に溶けようとしている
きみの
緩やかに震えた声は
ぼくの鼓膜を刺激して
とても美しい夢を
瞬きの間にだけ
見させようと
/一瞬の闇に
映し出した夢の中で
きみは、
赤く溶けて
ぼくの汗ばんだ髪に
指を這わせながら
何かを、
呟いていた/
鈍く刺すエンジン音に
驚いて目を開いたぼくの
鼻先を、ゆっくりと
石鹸が掠めていく
いつの間にかきみは
その背を羽ばたかせて
鳥になるの、と
呟いたとおりに
空へと消えていた
/エンジン音は
足元でまごついたままに
きみがくれた夢を
消せないでいる
傾き始めた空に
あの日の砂時計が
揺らめいて
見えた気が、した/
きみの
スカートのプリーツが
視界の端ではためいたのを
ぼくは忘れようとして
時計の針を戻す
そして
遠ざかるエンジン音に
きみの笑い声が
眠るように
溶けた気が、した。