ゆめとぼく、ときときみ。
山中 烏流

夕暮れのバス停で
鳥になるの、と
呟いたきみの背には
小さく
ほんの小さく、翼が生えていて
ぼくは思わず
溜め息を吐いてしまった
 
砂時計の砂を飲み込んで
時を止めようとしたことを
きみは
柔らかく恥じながら
そんなぼくの頬に、そっと
口付けをする


バスが来るまでだと
微笑みながら
空に溶けようとしている
きみの
緩やかに震えた声は

ぼくの鼓膜を刺激して
とても美しい夢を
瞬きの間にだけ
見させようと


/一瞬の闇に
 映し出した夢の中で
 きみは、
 赤く溶けて
 
 ぼくの汗ばんだ髪に
 指を這わせながら
 何かを、
 呟いていた/


鈍く刺すエンジン音に
驚いて目を開いたぼくの
鼻先を、ゆっくりと
石鹸が掠めていく

いつの間にかきみは
その背を羽ばたかせて
鳥になるの、と
呟いたとおりに
空へと消えていた


/エンジン音は
 足元でまごついたままに
 きみがくれた夢を
 消せないでいる
 
 傾き始めた空に
 あの日の砂時計が
 揺らめいて
 見えた気が、した/
 
 
きみの
スカートのプリーツが
視界の端ではためいたのを
ぼくは忘れようとして
時計の針を戻す

そして
遠ざかるエンジン音に
きみの笑い声が
眠るように
溶けた気が、した。


自由詩 ゆめとぼく、ときときみ。 Copyright 山中 烏流 2007-08-30 11:21:20
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