メロディールーション
チグトセ

あるメロディーを聴いた
けたたましい騒音の中から

あるメロディーを聴いた
さかまく日々の雑音の中から


街に集まった人びとは
メロディーに合わせて歌を歌った
どんなに綺麗な旋律よりも切なく波打って
音の鎖は伸びていく

この世に愛はあるが
愛想はない
知らなきゃいけない「現実」なら
全部A4のコピー用紙に書いてある
それがこの歌の歌詞である

黄緑色の田園地帯にも
朱茶色のコンクリートジャングルにも
ダンボール層の地下通路にも
コンビニの迷宮扉にも
パン屋の厨房にも
深夜の工事現場にも
焦げ茶色の液晶画面にも
浸透する歌声が
震えて

僕はようやく終曲線のあたりで
何かがわかりかけた


さあ今一度ゲームを再開しようか
セオリーも名もないこの宴を
円卓テーブルに戻ろうか
埃を払い、悩みを脇にどけて
酩酊の楽園でひとしきり恍惚に酔ったなら
快方で、号砲がざわめく

不意に骨ごと痺れる爆音が轟き
炸裂した電撃を浴びてパルスの庭に降り立ち
色とりどりの残照が瞬く
スローモーションでメリーゴーランドが鳴る

さああらん限りの電脳回路よ、揺れろ
判別不能の夢を垂れ流して
役立たずの制限時間をとっぱらい
僕たちの変幻自在な存在意義を
思うさまに

僕は戯れて
あなたは何かを感じて
膝は抱えられたままで
そう続けて

みんな歌う
実在するのはその瞬間だけだから
決して壊すことの出来ないその瞬間だけだから

歌は喝采に成り
世界の持続を喚起し
歓声に成り
熱狂的支持者が記録し
僕たちは戯れ
あなたが抱いた気持ちをも巻き込んで
メロディーが流れている
壊れることのないメロディーが
この世は愛で満ちているが
愛想で満ちることはない
知らなきゃいけない現実は
きっとこの歌詞の中に潜んで
――








あるメロディーを聴いた
けたたましい騒音の中から

あるメロディーを聴いた
そういう、優しい世界の喧噪の中から



自由詩 メロディールーション Copyright チグトセ 2007-08-27 01:48:23
notebook Home