創書日和「砂」 海岸
山中 烏流

足音の沈む
その、一瞬のあとに
居眠り運転の波は
名残を
綺麗に拐ってしまった
 
笑い声が響く
潮風の中に
私が産み落とした何かは
もう、息を潜めている
 
 
渇き始めた城が
先端からほどけて
足元へと還るのを
わざと、直さないでいた
 
波の中で
思わずに掬い上げた砂が
指の間から滴るのを
見つめていたように
 
 
靴に紛れ込んだ
砂をはらい落としたとき
不意に、風が吹いて
それを拐っていった
 
私は
風に、なれたのだろうか
 
 
売店で
売られていた小瓶の中
赤い砂が舞うのを
半分だけ残して、捨てた
 
その代わり
あの城の跡を
捨てたのと同じぶんだけ
詰めて、栓をした
 
 
捨てた赤色に染まる
波が
私の脚を濡らす
 
そのことに気付かぬように
小瓶を鞄に滑らせたあと
裸足で砂を踏んだ
 
 
私は
 
波に、拐われるのだろうか。


自由詩 創書日和「砂」 海岸 Copyright 山中 烏流 2007-08-24 10:28:00
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