夏の終
モーヌ。




白い 塗りかべの 建築や 小路を 抜けて

とまどいながら 最初の 一声が いまだ

はばたいている ように かぶさって いた

こちらがわの 無垢な 海砂の 地へ

いくども つばさの かげを 感じて

まばたきの できない 光線が 照らし

乾いて 息が 苦し かった

どこの もの だろう...

ひとつの 実りの 豊穣の なかで

( もう 夏の 終声が はじまる ときだ )





細い 蔦草で 編んだ 冠を かぶって

あなたは こちらを ふりむいた

くびれや ふくらみに 夕映えは すべり

上気 した 顔は 無声に はじけて あからんだ

近寄りがたい 虚空に 生まれた

波が... ひとや いわおを 洗い 流す

水溶性の 存在に しびれ ながら

やわらかく なって わかれて いった

さもなければ 知らない ままだった ろう

背景が どこまでも 雄弁で 時の はざまに

ときたま 鮮やかな 回帰を 描くのが

習性と なって ゆくのを

かがやかしい 日焼け と 記憶 の ほてりを

反復される 間歇に 抱き かかえて 唄う

それは 痛み でもあり なぐさめ でも あった

ぼくは つばさを 持たない のに





あなたが

おおきな つばさを もった 白鳥の ように

ぼくに おおい かぶさると

ガラスを 砕いて

飛んで きた 銃弾が あなたを つらぬいて

雪の ごとくに 散り ひらいて ゆくのを 感じた

ごめんね...

ことばは 気弱に ひびいて いた

生き残りたくは なかった

その 掟に 従う ことも

誰が 知って いる ひとが いようか...

むしろ 空っぽに なり ながら

じぶんも どこかへ はげしく 動いて いるのを





いまは

砂礫の うえを あるいて いた

夕映えは 長く 長く 去りがたく

その 長身を 伸ばした

かたむいた 太陽に 焼かれながら

水の なかで ひとりの しらさぎが

陽に 焼かれることは なく

かれ ひとりっきりの あゆみの なかで

返照 して 立って いた

川辺で ぼくが 腰を 下ろそうと

かれは 全身 すずやかに 不動 だった

あんなにも 怜悧に 熱く かさなった 青空が

血を 流して いると やさしく 見えた

ばらの 花束を 抱えている ようにも 見えた

積乱雲が 地平から むら湧く

東のほう 東京や 海のあるほうを 見つめ ながら

ぼくらは ふたつの かげと なり ながら

ゆくものを 黙って 解けながら 送った










自由詩 夏の終 Copyright モーヌ。 2007-08-24 08:16:02
notebook Home 戻る