少女の願い
なかがわひろか
少女は影と仲良し
毎日毎日一緒に
日が暮れるまで遊んだ
少女は
周りの大人たちの話す陰口や
虚飾に包まれた世辞を聞いては
呆れ果てていた
大人になんかなりたくないわね
少女はそんな風に
毎日影に語りかけていた
影は黙ってうなずいた
ある日少女は
大人になることをやめた
私はもう大人にはならないわ
少女は影にそう伝えた
幾年が過ぎた
少女は少女のままだった
変わらず少女は
影と毎日日が暮れるまで遊んだ
周りの大人たちは
どんどんおいぼれ
そのうち一人で歩けなくなったり
一人二人と減っていった
少女の周りはとても静かになった
少女は毎日影と遊んだ
周りの喧噪がなくなって
少女はやっと
影が大きくなっていることに気がついた
どうしたの
あなたはどうしてそんなにまで
大きくなってしまったの
影は優しい声で答える
君が大人になる代わりに
僕が君の分まで大きくなったのさ
影は少女とずっと子どものままでいたかったけれど
少女の願いを叶えるために
自分だけが大人になる道を選んだ
そんな影を見て
少女は言った
私、大人は嫌いよ
そう言って少女は
影を足から切り離し
ずっと遠くへと
かけていった
いつの間にか年を取りすぎていた影は
少女を追いかけることもできずに
ずっとずっと地面に
張り付いたままだった
(「少女の願い」)