消化する過程
ミゼット
この頃酷く舌が重いのです
昨日食べた刺身のせいだ
なまぐさいあれがいけなかった
バイパスを走りながら理由を探す
朝ついたつまらぬ嘘のせいだ
私は透明人間と歩いています
理由があればいい、そうすれば安心だ
鉄の胎はむず痒い
柔らかく流れていくから歯を立ててみたくなる
重い舌の理由を探す
舌のかしこに小さな旗が立って
その下に砂の入った袋が下がっている
袋の森の中で小さな女が
女達がぶら下がったり殴ったりひっかいたりしている
砂粒は骨です
理由を探す
あるところにサンショウウオを飼っている女がいました
女はサンショウウオのひいやりとした腹が大好きでした
サンショウウオは栄養価の高い餌をたらふく食べ、みるみる内に女と同じぐらいの大きさになりました
サンショウウオが大きくなったので、元いた場所では生活が出来なくなりました
女はサンショウウオを連れて私の頭の中に引っ越してきました
サンショウウオは天然記念物です
勝手に飼育してはいけないのです
私は頭の中にサンショウウオがいることがばれないよう、耳栓とサングラスを買いました
こうすれば耳からサンショウウオが水をかく、ちゃぷちゃぷという音が漏れる事は無いし、目の裏を泳ぐ影が人に見られることはありません
女はどこにでもいるありふれた生き物なので、居ようが居まいが今更関係ないのでした
全ては完璧だと私は思いました
けれども私は鼻炎だということをすっかり忘れていたのです
ある日、バスの中でくしゃみをした拍子に今やオオサンショウウオとなったサンショウウオは頭の中から吹き飛ばされ、花粉やハウスダストと一緒に前の席の小母さんの髪にくっつきました
私は気づかぬ振りをして下車し、今に至ります
かわいそうな女は(所詮居候の身ですから)恨み言の一つも言えずに身体中を探し回り、一番サンショウウオの感触に似ていた舌を抱きしめてその裏でしくしく泣いているのでした
理由
私の舌はじうじうと音を立てて焼かれます
焼きあがったそれは、切り分けられ食べられました
あなた達に
刺身なのか嘘の罰か、砂袋か女のせいか、舌がもう無いことを忘れていたからなのか
どの理由も皆、本当のように思えます
でも全部という答えは無いのです
どれか一つ、それとも別の、
考えているうちに家についてしまいました
理由はバイパスの上でなくてはいけないのです
車を運転しているうちでなきゃいけないのです
(以下数行欠落)
ここがあんまり静かなので、魂はまだバイパスを走っているようです