ノート(夜へ ひとり)
木立 悟





空に埋もれた巨きな鳥を
指でたたいて確かめる音
少し傾いだ雨になる


片足を尾のように動かして
屋根の音を追っている
何もない日の生きものの笛


水のなかで抱く膝に
いつのまにか花が咲き
魚になり火になり泳ぎ去る


見る間に鳥になる左目を
左手で摘み取り元に戻せば
空は変わらず蒼くゆらめく


燃える舟を風が運ぶ
くすぶるかけらを魚たちが追う
海には光が落ちつづける


横たわるけだもののすぐそばを
唱い舞いながらすぎる人々
気まぐれな尾を標と消えてゆく


はざまを行き来するものたちに
手わたせるものは多くない
皆ひとつだけを背負い歩き出す


透明な板に浜辺の砂を詰め
楽隊は変わりゆくものを奏でつづける
海に終わり 海にはじまる


右手の鳥に左手が触れ
右手も左手も鳥になり
いちばん近い夜を巡る


雨は来し 鳥は来し 
高らかな
空の骨から


蜘蛛の巣を破らず降りつづく夜
もっともっとひとりに届け
もっともっとひとりに響け
















自由詩 ノート(夜へ ひとり) Copyright 木立 悟 2007-08-14 22:40:30
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