エスパーと雨
nm6

1.エスパー(もしくは君)


エスパーも、変わらない。ただ気づいてしまうというだけで、同じように揺れ動いて、俯して、辛うじて立ち上がる。忘れてしまおうとしては、切れ端に、文字。読めないけれどつよく見つめて、その奥の、ゆかしい側だけを切り取る。そうしてそれは灼きついて、また次の予感になっていく。そうやって、離れなくなる。


この街に雨が降るときだけ、君はエスパーになる。
ぼくは湿っぽい肌触りをからめとる目前の空気をじっと見て、
夕焼け髪を手櫛で乾かすドライヤーの空気と同じかどうか考える。






2.雨(たとえば電車)


電車の窓から眺める建物は、空に引き摺られてグレーになる。僕らの周りには数がいくつなのかという問題とそうでない問題とがあって、それでもとにかく通過していく。看板が「ぼくら、ぼくら」と話しかけてきて、君ならば狂おしい偏頭痛を起こすところだけれど、ぼくは平気だ。なにも立ちのぼらない煙突を、火のないところの煙突を、ゆっくり見ていたいけれど、スピード。はためく洗濯物はよく見る外国の写真で、窓ガラスにこびりつく水滴が「ぼくら、ぼくら」と話しかけてきて、で、跡。


蒸し暑いのは、外側もオレンジなら。放送の訛りで失笑の女子高生と、咳払うネクタイの中年と、貧乏ゆするヘッドフォンの男子中学生と、バランス感覚を競う日能研の小学生。到着すれば混じる喧噪と、標識と、常に目眩のするような広告の笑顔クラクラ。番号ピポパポ。連絡はまた明日、そしておしゃべるぼくらの体温は上昇し、香水は蒸発するり。リングノートに繰り返すちょっとした間違い。落ちてくる靴下は何度目か、上げるその側の空き缶に入ってしまおう。こうして運ばれて転がる日常もそう、いつもより少しだけ湿っぽいのです。うわあ、とにかくすべては睡眠だ。


跡。
雨細工の町では、たましいだけが諦めきれない。






3.エスパー再び(誰でも)


エスパーも、変わらない。ただ気づいてしまうというだけで、同じように焦がれて、思い込んで、些細なことで喜ぶ。過ごしてしまおうとしては、切れ端に、文字。読めないけれどつよく見つめて、その奥の、ゆかしい側だけを切り取る。そうしてそれは灼きついて、また次の予感になっていく。そうやって、離れなくなる。


ことばは、足りているか?
ことばは、足りているのか?
「ぼくら、ぼくら」と話しかけてハロー・グッバイ。
ハロー。そう、ハロー。
すかさずグッバイ。


黙ってしまおう。
あたらしい。あたらしいね。




そして、跡。
この街に雨が降るときだけ、少しだけ考えてしまうけれど。
ぼくらはやさしく、嘘のようにやさしく、諦めればいい。
分かり合えないのは、同じだ。


自由詩 エスパーと雨 Copyright nm6 2004-05-25 17:39:08
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