水中
山中 烏流

退化を始めた水掻きの
薄い膜が、そっと
私の身体を動かしては
その感触を
柔らかくしていく
 
反射した光と
屈折した光の交点は
ゆっくりと揺らぎながら
ただ、全てを
受け止めている
 
 
緩やかな動きで
脚を上下させる
小さな気泡たちが
生まれては、消えていく
 
流れに沿って
なびいている髪の毛の
波打つ動きが
気泡を生んでは、また
 
 
飛沫の視線が色付いて
光彩を形作り
円を描いたそれは
無邪気な少女の頭上で
光を放つ
 
出来すぎた光景に
少し、目を丸くしたあと
その眩しさに
私は目を細める
細めては、閉じる
 
 
 (鼓膜の表面で
 (静寂が鳴いている
 
 (麻薬のようなそれは
 (息の仕方さえも
 (忘れさせて、
 
 
とくとくと脈打つ膜を
光彩に透かして遊ぶ
その僅かの間に
私は
えら呼吸を覚える
 
引力に任せて
沈んでいく身体は
もう、既に
人であることを
忘れてしまって
 
 
光彩は
 
もう、見えない。


自由詩 水中 Copyright 山中 烏流 2007-08-06 00:46:24
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